駆け抜けた少女【完】
ガチャガチャ……
ザクッ……
グチャ……
ドンッ……
地味に無様な音が部屋に響く。
「……………」
「……………」
そっと山崎を見上げると、呆れ顔の山崎がいた。
申し訳なくて、矢央は俯いてしまう。
山崎の言う通り食べられる分だけ食事をとろうとしたが、腕を負傷していたためお椀などが持てず食事に手間取っていた。
味噌汁なんかは零してしまうという情けなさ。
「ごめんなさい……」
「謝る必要はない。 気づいたれんかった俺が悪いわ」
矢央の腕の傷が、腕を動かせないほど酷いものだと知らなかったため、一人で食べられると判断してしまった。
山崎は矢央から箸を取り上げると、矢央の食事を手伝い始める。
それに戸惑うのは、矢央自身。
「え! いやっ、自分で…」
「無理やろ。 その腕やと時間はかかるし何より汚い」
「うっ………」
それは自分が一番気にしていることなので、何も言い返せない。
「ほら、照れてる暇ないで。
俺はこの後仕事を控えとんねや、悪い思うなら早よう食うてくれたら助かる」
言い方はキツいが、その仕草や態度からは矢央への気遣いが感じとれる。
ほんのり頬を赤く染め、口を開けた矢央を見て、山崎は初めて微笑んだ。
うわぁ…綺麗な人…。
色気のある笑顔に思わず噛むのを忘れてしまうと、また無表情で見られ、
「行儀悪いことすんな」
「……はい、すみません」
怒られ、素直に謝罪する。
幾度かそれを繰り返すうちに、食事を平らげていた。
自分の胃袋は正直者だなと感心していると、お茶を差し出された。
その隙のない行動は目を見張る。
「ありがとうございます。
山崎さんって、慣れてるんですね?」
「……なにがや?」
お膳を持ち立ち上がった山崎は首を傾げた。