駆け抜けた少女【完】
*
「で、退屈しのぎに俺の部屋で暇つぶしか?」
「暇はつぶせてないですけどね」
屯所内をさ迷って辿り着いた場所は、鬼副長土方の部屋。
開いていた障子戸からヒョコっと中を覗くと、土方は文机に向かって難しい表情を浮かべいるところだった。
「なら、茶を頼んできてくれ」
暇だ暇だと背後でただをこねる矢央に用事を言いつける。
――――――が、
「嫌です」
即答で、拒否された。
「暇なんだろうが」
と、土方が振り返れば、畳に頬杖ついて横たわる矢央を見て呆れかえる。
「暇すぎて、忙しいとこなんです」
「いや、どっちだよ?」
「ですから、どうやって暇をつぶすべきか考えるのに忙しいんですよ、わかります?」
「いや、まったくわかんねぇ」
ハァと、溜め息をつかれる始末。
なんで、俺が呆れられてる?
「つまり、土方さんの世話をやいてる暇はないというわけです」
「暇だから遊びに来たっつったよな?」
「言いましたねー」
「なのに、暇じゃねぇってか?」
コクコクと頷く矢央は、どう見ても暇そうだ。
だらだらと畳の上に寝転がっているのだから。
一応年頃の女子。
その態度はどうなんだと、土方は深く溜め息を吐く。
「あー、暇っ! 土方さん、暇っ!」
「お前、まともな日本語を使え」
「私はまともな日本人だから大丈夫です!」
いや、かなり心配だ。
なんとも和やか時間が過ぎていた――――――