駆け抜けた少女【完】
「お前、暫く部屋を出ろ」
「え…………?」
永倉は真っ直ぐ沖田を見つめたままだ。
沖田には永倉が言っている意味が理解できず、小首を傾げている。
「お前の中で、お華と矢央がごっちゃになってんのはわかるがよお……」
永倉は浅く息を吐くと、今朝の部屋の様子を思い出していた。
沖田が出て行った後、矢央の鼻を啜る音を聞いて永倉は、暫く二人は共にいるべきではないと考えた。
矢央自身も自分の置かれた環境に戸惑っていて、知らない場所で過ごし男達の中に女一人でいるのだ。
その不安はきっと、自分達が想像するよりも大きいはず。
気丈に振る舞ってはいたが、自分達が起き出しても気を使い寝たふりをする少女の小さな背中を見て、永倉はそう考えに至った。
「辛気臭ぇのはお断りだ。
お華はもういねぇんだよ、矢央を矢央として受け入れられるようになるまで、暫く離れろ」
「永倉さんは、彼女を受け入れてるんですか?」
「受け入れようとしてんだよ」
あまりにも似ているお華と矢央の存在に戸惑いを感じるのは沖田だけではない。
藤堂や原田もそうだが、近藤や土方、そして永倉も矢央を一人の人間として受け入れようと接しているのだ。
だが沖田だけは、矢央を見る目に未だにお華を重ねて見ている。
それが、今の矢央にとってどれほど不安要素になっているか。
初めて矢央と言葉を交わした夜、膝に顔を埋めていた矢央や、昨夜の震えた小さな背中を見ると、少しでいい。
ほんの少しでもいいから、その小さな身体にたくさん押し込めた不安を取り除いてやりたいと思う。
「どうしても彼女を見ていると、あの日の事を思い出すんです。 冷たい躯や、血で染まった己の手を…………
ねぇ、永倉さん――…」