だから、君に
家族、と口にした瞬間、自分の背中をひんやりとした手でなぞられたような感覚が襲った。
僕の家族。麻生たちの家族。
複雑に交わり、そしておそらく、理解し合うことはない。

麻生さんは眉一つ動かさず、机の一点をじっと見つめている。

「母にも話してありますし、大丈夫です」

取って付けた様に明るく、麻生が言った。

「おじいちゃん、大丈夫だよね?私、頑張るから」

自分を置いていった父を、この子は恨まなかったのだろうか。
父の再婚相手の子供である僕を、この子は憎まなかったのだろうか。
目の前でひきつった笑顔を浮かべる小さな彼女は今、懸命に僕を守ろうとしてくれている。
そんな気がして、僕のなかに堪らなく切なさが募った。

ずっと黙っていた麻生さんは、ゆっくり口を開いた。

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