だから、君に

「そう思わないと、やりきれなかったんだ」

麻生さんの声に、僕は拳をにぎりしめた。

違う。やめてくれ。

僕のなかの獰猛で狡い部分が、彼の言葉に必死に抵抗している。

由紀は事故じゃない。
由紀は、僕たち家族の由紀は。

「あの子を、芹澤に引き取らせるべきではなかった」

静かだった麻生さんの声に、僅かな悔しさが載せられているのを感じた。

「あの子はうちにいさえすれば、普通の幸せを手に入れられたはずなのに」

やめてくれ。そう怒鳴りたいのに、うまく頭が働かない。身体が鉛のように重く、深く沈んでいくのがわかる。

由紀は僕たちといて幸せじゃなかったと言いたいのか。そんなはずはない。
そう言ってやりたいのに、そのことを実感しているのは、紛れも無く僕たち『家族』だ。



< 115 / 152 >

この作品をシェア

pagetop