だから、君に
蘇るのは、由紀の無表情ないつもの顔。
とっつきにくくて、何を考えているのかわからなくて、それでも彼女のきつく結ばれた口元が、いつも何かに耐えているように見えたのは、いつの頃からだっただろうか。
由紀は『男』だ。生物学的には。
でも僕たちにとって、由紀は『女』であり、その事実を守ることが、家族の役目だと思っていた。
思っていたのに。
「……帰って、くれませんか」
自分の声が震えていることにも構わず、僕は二人の顔を見ないように、倒してしまった椅子にそっと手をかけた。
「……先生」
麻生の声が不安で揺れている。僕は答えることができず、椅子の一点を見つめ続けた。