だから、君に
母は何も聞かず、みかんの皮をむき続ける。
テレビは初詣に押し掛ける人々の様子に切り替わった。その様子を写すべくヘリコプターに乗り大仰な解説を加えるアナウンサーを見て、あら素敵、とつぶやいた。
「でも芹澤さんには負けるなあ」
そう小さな声で言ったのも、聞こえた。
「あの写真撮るとき、大志が率先して芹澤さんの横に立ったの、覚えてる」
「ああ」
母は四人で撮った写真を、目を細めて見ていた。
「いつもなら母さんの横を離れなかったのに、いざ撮るとなったらそそくさと芹澤さんの横に立っちゃって。びっくりしたな」
あのとき僕は、芹澤さんの横にいたかったというより、苦手だった由紀の隣に行くことを避けたのだ。
「芹澤さんね。後でとっても喜んでた」
「そうなんだ」
「こうやって見ると、あんたと芹澤さん、似てるわ」
「そうかな」
「由紀も私みたいにきれいだし」
「まあ、きれいはきれいだけど」
本当にね、と言った母の声は、それ以上続くことがなかった。
テレビは初詣に押し掛ける人々の様子に切り替わった。その様子を写すべくヘリコプターに乗り大仰な解説を加えるアナウンサーを見て、あら素敵、とつぶやいた。
「でも芹澤さんには負けるなあ」
そう小さな声で言ったのも、聞こえた。
「あの写真撮るとき、大志が率先して芹澤さんの横に立ったの、覚えてる」
「ああ」
母は四人で撮った写真を、目を細めて見ていた。
「いつもなら母さんの横を離れなかったのに、いざ撮るとなったらそそくさと芹澤さんの横に立っちゃって。びっくりしたな」
あのとき僕は、芹澤さんの横にいたかったというより、苦手だった由紀の隣に行くことを避けたのだ。
「芹澤さんね。後でとっても喜んでた」
「そうなんだ」
「こうやって見ると、あんたと芹澤さん、似てるわ」
「そうかな」
「由紀も私みたいにきれいだし」
「まあ、きれいはきれいだけど」
本当にね、と言った母の声は、それ以上続くことがなかった。