だから、君に

「大きく、なったなあ」

先に口を開いたのは芹澤さんだった。

芹澤さんの顎の線は、随分細くなったように感じた。

「……芹澤さんは、」

お変わりなく、そう口にしようとして、ぐわりと胸が熱くなる。

目の前の芹澤さんは、ずいぶん変わってしまったように思う。

もともとそれほど若かったわけではなく、母よりも大分年上だったけれど、彼にはいつも若々しい溌剌さがあった。

年月が流れていたのだ。
僕の気がつかないところで、彼にも、僕にも。

それほどまでに僕たちは、顔を合わせなかった。

それほどまでに僕は、たくさんのことから逃げてきたのだ。


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