だから、君に

「麻生は、僕の生徒ですから」

おやすみなさい、とだけ付け加えて、僕はマンションを後にした。

自分に向けられた好意をにべもなく退けるのは、冷たいことなのかもしれない。

前田先生はすてきな女性だ。見た目だけでなく、仕事に熱意だって持っていて、何より僕を見てくれている。

由紀だったら、何と言うだろう。あんなぶりっ子やめとけ、なんてやや死語を用いながら、いつものブスッとした顔で言うんだろうか。

月を見上げると、ぞっとするほど綺麗だった。
僕の過ちを責め立てているかのように。



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