だから、君に
町の晩夏で最も盛大な祭だけあって、海は大混雑だ。家族連れにカップル、学生集団に、スーツを着ているのは仕事帰りの人々だろうか。
人の波を掻き分け、僕はどこで花火を見るかぼんやり考えた。
見回りと言っても、花火が上がっている間くらいは、眺めていても罰は当たらないだろう。なるべく人目につかないところに出たほうがいいかもしれない。
僕の歩みに付いていけなかったのか、ポロシャツの裾を後ろから軽く握られた。
振り向くと、前田先生が不安げな面持ちで僕を見上げている。
「あぁ、すみません。歩くの早かったですか」
「いえ、そんな。ただ、ちょっとはぐれてしまいそうで」
そう言って、ほんの少し首を傾げてみせる前田先生に、僕は戸惑ってしまう。
こういうとき、どうすれば相手を傷つけずに済むのかなんて、たぶん僕はわかっていると思うのだけれど。
「はぐれたら見回りのとき不便ですからね」
僕はわざとにっこり笑って、鈍感なふりをした。
「携帯で連絡を取り合いましょう。もし連絡がとれなかったら、前田先生はお帰りになって構いませんから」
女性の一人歩きは危険ですから、と付け加える。彼女は一瞬ひどく傷ついた顔をしたけれど、すぐにはい、と笑ってみせた。
最低。
そんなふうに、由紀が僕を罵っている気がした。