だから、君に
たとえば、髪の色を染めること。

学校にお菓子を持ち込むこと。

些細なことのようで、僕たちにとっては実は大切なこと。

それをしたとき、自分が自由になった気がするから。

だめだと言われたことを、自分の意思で選択するとき、なぜか自分がとても大きくなったような気がするのだ。

それでも僕らは、それが本当の自由でないこともわかっていた。

そして由紀が、まったく自由とは掛け離れた場所で生きていることも。

「その本、読む?」

僕は彼女の言葉から逃げるように、話題を逸らした。

「読むなら、母さんが持ってた気がするから、貸してもらえば」

「ティファニー?」

「そう」

「……じゃ、そうしよっかな」

僕はいつもそうして、由紀から逃げた。

由紀の核心をつくことから逃げた。

それは当時、僕なりの精一杯の、由紀への愛情のつもりだったのだ。


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