運命
『よかったね、梅沢。これでようやく仕事に集中できるって訳か。』


『そんな言い方されたら、いつも失敗ばかりしているみたいじゃないですか!!』


『違うの?』


『‥違いません‥かも?』

私たちは笑った。



『梅沢、ここからは少し真剣な話をするけどいい?』

先輩の表情が一気に変わった。
私は静かに頷いた。


『まだ同棲が始まっただけで入籍とか結婚の話は進んでないんだよね?』


『はい‥』


『ここからは、結婚を経験してる先輩の‥イヤ、女の意見として話すけど‥‥
結婚はよく考えてからした方がいい。』


『それはつまり‥今は結婚するなって事ですか?』


『そうだね。今すぐは勧めない。』


『どうしてですか?』

私は体を乗り出して聞いた。



『入籍だけ先に‥とか考えてるかもしれないけど、社会人になるって事は「世間体」ってものも気にしないといけないんだ。学生結婚とは違って、会社の上司とかを招いて形式にそった結婚式が常識になってくる。

年配の人は古い考えしか頭にないから、結婚=女性は家庭に収まるって見てくるんだよ。それなのに、結婚した女性が職場に残ることを知ると、白い目で見られがちになる‥』


『でも、それは先輩も同じ境遇を味わったわけですよね?』


『だからだよ。だから梅沢にはそんな辛い思いして欲しくない。』


『先輩‥』

力んでいた力が少し抜けた。


『すぐに結論が出る問題じゃないから、同棲している彼とよく話し合って決めて欲しいんだ』


『ありがとうございます。‥考えてみます』


私たちは静かに昼食を食べ始めた。
先輩は、過去の自分を振り返りながら‥私は、聡との将来を想像しながら‥

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