運命
どのくらい経ったんだろう‥

しばらくすると聡が私から少し離れた。


『心配かけ続けてたよな‥ごめん。今までの事、ちゃんと話すから聞いてくれる?』

私は頷いた。


部屋の電気も付けず、暗い中で聡は話し始めた。



『デイに清水さんって人が利用してるって話は一回だけしたよな?愛のお父さんに挨拶に行く予定だった日に、清水さんの様態が急変して心配だから挨拶に行けないって‥』


私は頷いた。

『その日は検査入院して、次の日には帰れたんだけど‥看護師さんに「次倒れたら、ご家族を呼んだ方が‥」って言われたんだ。
でも、清水さんの家族を呼ぶことが出来なかった』


『どう‥して?』


『私たちには関係ありません。の一点張りで‥』


『そんなぁ〜‥』


『俺も、どうしたらいいのか分からなくて。利用者のプライベートにまで首を突っ込んじゃいけないって言われてたし‥でも、ほっとけなくて。

その時、気づいたんだよ。そういえば俺の事、孫だと思い込んでるって事に。少しでも安心させたくて、利用時間後も自宅に行って様子を見てたんだ。』


『それが、帰りが遅かった理由なの??』

聡は頷いて話を進めた。


『始めのうちは喜んでくれていてさ、体調が回復しつつあったんだけど‥クリスマスの日に様態が急変して、病院に運ばれたんだ』


あっ!!
この話、先輩と話していたことだ。
デイで働く男の人が救急車呼んだって、聡のことだったのか‥

少しずつ、私の中にあった違和感が溶けていった。



『すぐに手術したら、もう少し長く生きられたのに‥清水さん手術を拒んで‥最後まで俺と話がしたいって‥』

聡の目に、また涙が溜まってきた。でも聡は決して流さなかった。


『俺、清水さんに何にもしてあげられなかったのに‥最後まで「ありがとう、ありがとう」って言い続けて永い眠りに入ったんだ。俺の目の前で。
それからの事は何も覚えていない。いつの間にか、この家に戻っていた。でも‥』


『でも?』
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