運命
聡が私の傍からいなくなるなんて信じられなかった。だから、涙なんて出なかった。


『そうだ。家に帰ろう。そしたら、いつもみたいに聡が玄関まで出てきてくれるもんね』

私は電車に乗って家に向かった。
電車に乗っているとき、何度も聡の携帯や、実家、聡の実家から電話があったけど‥そんなの目に入らなかった。

みんな、私達の入籍を聞いて「おめでとう」って言いたいんだろうと思い込んでいた。



『ただいま~、聡。帰ってきたよ』

聡の返事がない。


『聡?』

私は数少ない部屋を、全部開けてみたけど何処にも聡はいなかった。
部屋の中は、朝のままだった。


『聡、食器を洗わないで役所に行ったんだ。仕方ない、私が洗っとこ』

私は2人分の食器を洗い始めた。


『聡‥何処にいるんだろう?やっぱ携帯に連絡しないとダメだよね?さっきの女の人はきっと幻聴だったんだよ。聡の携帯に女の人が出るなんておかしいもんね』


今度は私から聡に電話をした。


ガチャ

『あっ、もしもし聡?愛だよ。今何処にいるの?私、仕事終わって家に帰ってきちゃった。早くお祝いしようよ』


『愛ちゃん?聡の母です。先ほど病院から電話があって‥私も、愛ちゃんのご両親も今、こちらの病院にいます。愛ちゃんも聡に逢っていただけないでしょうか?聡、愛ちゃんに逢いたいと思うの。』


『あっ、聡そっちにいるんですか?私探してたんですよ。じゃあ、今から行きますね』


私は電話を切った。

『どこか怪我でもしたのかな?』


さっき、宮下さんが言っていた事を忘れていた。
イヤ‥私の強い思いで消したたのかもしれない‥


とにかく聡に逢いたかったから病院に急いで向かった。
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