運命
『愛、そろそろ聡くんから離れてくれないかな?』


『どうして?私達夫婦なのよ?一緒にいちゃいけないの?』


『そうじゃない。愛とずっと一緒にいて、聡くんお風呂に入ってないだろ?綺麗にしてあげたいんだ』


『お父さん‥』


『お父さんだって、好きな人の前では綺麗でいたいって思うぞ。聡くんだってきっと‥』


『そっか。うん、分かった。じゃあ、私どこにいればいいかな?』


『そうだな‥病院の受付で待っていてくれないか?』


『うん。じゃあ、お風呂から上がったら受付まで呼びに来てね』


『分かった』


私は一旦、聡と離れて受付で聡の帰りを待った。



その頃、お父さん達は‥

『今のうちです!!』

聡を病院から運び出して火葬の準備に取り掛かっていた。


そうとも知らず、私は一人で‥






その後、聡に逢ったのはお葬式と告別式の席だった。


告別式では、聡に最後の言葉を伝えることが出来ず‥聡と離れ離れになるということが理解できず‥涙すら出なかった。


告別式の席には、警察の人が来ていて事故の経緯を教えてくれた。


『高橋さんは、信号が赤になったので横断歩道の手前で信号が変わるのを待っていました。そこの信号機が長いって事を知っていたのでしょう。その時、奥さんに3回電話をしています。

3回目の電話の途中の出来事です。信号が黄色に変わり、慌ててハンドルを切ったトラックの運転手がカーブを曲がりきれずに転倒してしまいました。高橋さんは電話に夢中だったので、それに気がつかず‥まき沿いに遭ってしまいました。

トラックの運転手は、長距離運転の疲れと、その時‥携帯電話で友人と話をしていました。わき見運転です。幸い命は助かり、今は刑務所にいます。』


『どうして、聡が命を落とさないといけないんでしょうか?聡は何も悪いことなんてしてないじゃないですか。
交通ルールを守った人が死んで、守らなかった人が生きてるなんて‥そんなのおかしいと思いませんか?』


『それは‥』

さすがに警察の人も困っていた。
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