運命
『落ち着いた?』

私は頷いた。


『あいつ等も、悪気があってあの場で話題を出したわけじゃないんだ。だから‥』


『分かっています。急に取り乱してしまってすみません。もう大丈夫ですから、仕事に戻りましょう』


『梅沢‥』

何処からこんな元気が出てくるんだろう?そんなの私にも分からない‥ただ、聡は生きていて私の帰りを家で待っている。そう思うだけで、その気力だけで「今」を乗り切れるような、そんな気がする‥



『先輩、終わりました。今日はもう帰っていいですか?』


『おう。いいぞ』


『じゃあ、お先に失礼します。お疲れ様でした。』

私はお辞儀をして会社を後にした。



帰り道、近くのスーパーに寄って2人分の材料を買って家に帰った。


『ただいま、聡』

もちろん返事はない。


『今日は、聡の大好きな肉じゃがだからね。ちょっと待ってて』

私は夕飯の準備を始めた。



『聡できたよ~、熱いうちに食べようね。』

聡の分も盛り付けて机の上に並べた。


『聡、どうして食べてくれないの?冷めちゃうよ?どうして返事してくれないの?何か言ってよ‥ねぇ聡‥‥』



私にとって、この時間が一番辛い。
一緒に笑いあって食べていた夕飯。テレビをつけずに笑いあった時間。

この静けさが聡のいないことを強調させてしまう。


この部屋には、聡との大切な思い出がいっぱい詰まっていた。
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