運命
会社には、ギリギリ間に合った。
いつもの様に全員のデスクの上を台ふきできれいにして、ポットの水を換え、花瓶の花を変えていると社員が続々出社してきた。


『おはようございます。』

元気よく挨拶をすると、すれ違う社員も挨拶をかえしてくれた。中には、

『いつもありがとう。』

なんて言ってくれる人もいるから「今日も一日頑張ろう」って気持ちになる。


でも、今日の私はいつもより更に上機嫌だった。
それは昨日、聡のご両親に認めてもらえたことと‥左手にしている指輪。
これがある限りどんなことも乗り越えられる自信があった。


定刻時間になり、私は仕事に取り掛かった。

『梅沢、この書類の入力頼む!!』


『分かりました。』

メガネをかけて入力を始めた。パソコンは、得意ではないが嫌いでもない。
頼まれた仕事は何でもこなすのが新人の仕事だと思っている。だから、今もこうしてパソコンの前で作業している。


全ての入力が終わり、1部だけ印刷をしてプリントを渡しに行った。


『入力終わりました。最終確認、お願いします。』

そう言いながらプリントを両手で渡した。すると‥


『梅沢‥結婚するのか?』

急にそう聞かれたので驚いてしまった。


『な、何でですか?』


『だって、左手に指輪‥一昨日はしてなかったよな?』

しまった!!
彼氏がいることも、結婚することも話していなかった。
グチグチ言われるのが嫌だったので

『彼氏から貰いましたが、結婚はしません。』

とキッパリ否定した。
すると‥

『だよな。まだ入社して3ヶ月で寿退社するなんて笑い事にならないもんな』

そう言って笑っていたが、目だけは笑っていなかった。


『そうですよ。私、入社試験この会社しか受けてないんですよ!!そうまでしてこの会社に入社したかったのに、すぐに辞めたりなんてしませんよ』

なんて笑い返した。
でも、内心は笑い事ではない。


『これからも頼むぞ、梅沢』


『はい、宜しくお願いします。』

そう言ってとりあえずその場は凌いだ。
< 76 / 205 >

この作品をシェア

pagetop