運命
『今日はお忙しい中、お時間を作って頂きありがとうございます。改めてご挨拶させて下さい。
愛さんとお付き合いさせて頂いております、高橋聡と申します。今日は、愛さんとの結婚を承諾して頂きたくて参りました。どうぞ宜しくお願い致します。』

聡とタイミングを合わせて、私も一緒に頭を下げた。


『頭を上げてください。それに座布団使ってください。足元痛いでしょう?』


『いえ、大丈夫です。』

するとお父さんが始めて声を出した。


『使いなさい』

こっちを見ずに、一言だけ言った。私は何も言えなかった。イヤ、何かを言える雰囲気ではなかった。


『では、失礼致します。』

聡は座布団の上に正座で座った。




こんな重い空気を換えたのは、お母さんだった。

『聡さんのお仕事は、デイサービスセンターってお聞きしましたけど‥』


『はい。高校を卒業してからずっと同じ職場で働いています。愛さんと再会したのも、ここで働いていたからこうして逢えたんです。』


『そう。でも、休みとか不定期じゃないですか?愛とは‥すれ違う時間の方が多いような気がしますが‥』


『「1日休み」は正直なかなか取れません。次の休みは来月の22日です。でも、半日休みで愛さんと都合が合う時は、一緒の時間を優先しています。今は、別々の場所で暮らしているので毎日の電話は欠かさずにするようにはしています。』


『今、一人暮らしをなさってるとか?』


『実家で暮らしていると、どうしても親に甘えてしまいます。一人でどこまでやっていかれるのか知りたくて始めたところです。』


『大変でしょう。仕事と家事の両立は』


『そうですね‥。この間、愛さんに作ってもらった肉じゃがを食べたとき、久しぶりに家庭の味を食べた様な気がしました。本当においしかったです。』


聡が私を見て微笑んだ。

『いつでも作ってあげるよ。』


『ありがとう。』

そして、今度は正面のお父さんに向かって話し始めた。
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