運命
どのくらい走ったんだろう?
お母さんの熱唱を聞くのがイヤで、私は寝ていたからよく分からなかった。


『着いたわよ。』

私は目を擦りながら車から降りた。


『‥‥‥ねぇ、ここ何処?』


『知らない(笑)まっ、いいじゃない!!準備するわよ』

仕方ないので準備だけは手伝った。


お父さんも一人で準備を始め、私たちとは離れた場所で釣りを始めていた。




『釣れないわね~』

お母さんが呟いた。


『っていうか、ここに魚なんているの?』


『どうかな?水濁ってて魚見えないもん』


『お母さん‥魚釣る気あるの?』

また、ため息をしてしまった。



『ないわよ。』

思いもしない返事に私は、お母さんを見つめてしまった。


『あのまま家にいたって仕方ないじゃない。こういう時は、のんびりと過ごすのが一番よ。たまには何も考えない事も大切』

お母さんは釣竿を上下に動かしながら、魚の様子を伺っていた。


『そんなに急がなくてもいいじゃない。入籍の予定はまだ先でしょ?この先どうなるかなんて分からないわよ』


『私の気持ちは変わらない!!変わらない自信がある』

思わず力んでしまった。


『だったら、その気持ちをお父さんに分かってもらえるまで伝えるしかないわね。でも、焦らずによ』


『‥‥』


『あなた達は焦りすぎなのよ。お父さんだって聡君の誠実さとか、どのくらい愛を大切にしているか、今日の挨拶で分かったと思うわよ。でも‥
お父さんだって愛の事が大好きなの。そう簡単には手放したくないに決まってるじゃない。』


『‥‥』


『お母さんの言いたいこと、分かってくれたなら行きなさい。
お母さんは釣りをしにここに来たんだから、あなたと一緒にいると魚が寄ってこないわよ‥』


私は無言で立ち上がり、お母さんの元から離れた。
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