妖魔03(R)〜星霜〜
子供には解らないかもしれないが、続ける。

「勝負をしろとは言ってない。それはお互いを傷つけるだけで痛い思いをするだけだ。言いたいのは、今の環境でもいいんじゃないかって事だ。あんた達だって不満はあるだろうけど、まだ困っちゃいないから今の生活で満足しているはずだ。でも、それでいいと思う」

傍のコップに入った水を飲んで、乾いた口を潤わす。

「人間達の生活は進化したよ。医療でいえば様々な薬や機械を扱う事によって治せない病気も減ってきた。生活の面では電車や車などが出来て移動時間も大幅に短縮された。パソコンや携帯が出来、遠くまで通信が出来るようになって、お互いを近く感じられ面倒くささもなくなった。素晴らしい物だと思う。だが、それは複雑化を生み出した。複雑化された世の中には心の病も生み出した」

俺は日本の事を思い返す。

「心の病は昔からあったんだけどな。でも、今の日本は心に傷を負った者が増加の一途を辿っている。考えられない事かもしれないが、心を癒すために薬に頼ったりもする。それも進化した結果だろう。そう、何かを増やすって事は、良い事だけを招くわけじゃない。悪い事だって起こるんだ。だから、今の幸せから目を逸らしたらいけない。そして、自分に特別な力があるって事を自覚して使い方を考えれば、最新技術なんてなくても幸せなんだ」

「でも、ここじゃ治らない病気もあるんだろ?」

今の質問は子供ではなく、大人であった。

「あるだろうな。その時は人間達に頼っても良いと思う。だが、全てに頼る事が正解だと思うんじゃない。出来る事が出来なくなってしまうからな」

長く喋りすぎて、疲れきっていた。

「まあ、頼れる状況になればの話だけどな。悪い、今日はここまでだ」

俺の言った事が全て正解かと言えばそうじゃないが、自分なりの考えを述べる事が出来た。

そこに何を思うかは、妖魔が一人一人違ってくるだろう。

皆に背を向けて、ティアの家に向う。

しかし、こんなにも簡単に息切れするとは、本当に17歳か?
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