妖魔03(R)〜星霜〜
屋上に戻ってみると、江口さんの姿がありました。

フェンス越しに遠くを見つめているようです。

遠くに飛び立ちたいという願望でもあるのでしょうか?

人間ですから、屋上から飛び立てば落ちてしまいますよね。

下にマットでも持ってきて、飛び立つ練習を手伝ってあげるべきなのでしょうか?

「あなたがそんなにも空に憧れを持っているとは思いませんでしたよ」

「勝手にどっかに行って、勝手に人の考えを決めつけないでよ」

疲れた顔をしてますね。

丁度良い時にゲルパワー4千を買った甲斐がありました。

パワーと名のつく物ですからね。

これを飲めば全てがどうでもよくなるくらいのファンタスティックな気持ちになれますよ。

「これを飲んでください」

コーヒー牛乳とゲルパワー4千を江口さんの前に出します。

「この組み合わせは何?」

「江口さんはこれを飲んで、擬似的に空を飛んでる気分になれると思いますよ」

「ほんと、赤城先生って何考えてるかよくわからないよね」

嘆息する姿は欲求不満のイタリアの貴婦人を思わせるようです。

「評価を与えて下さるとは、今からでも空を飛べそうですね」

「どうせ、これを飲まなきゃ手紙を受け取ってくれないんでしょ」

私から二つを剥ぎ取ると、一辺に二つ封を開けてしまいました。

片方のゲルパワー4千を苦しい顔をしながら流し込んでいますよ。

勢いがある飲みっぷりは、窓際族のサラリーマンがおでん屋の屋台で酒を飲み干しているようです。

「ごほ!ごは!」

ゲルパワー4千の力は江口さんを窒息させかねない程に凄まじかったようです。

息を吸うために一気にコーヒー牛乳で流し込んでしまいましたね。

「いやはや、ご立派ですね。あなたは子供に夢を与えかねないヒーローに見えてきましたよ」

「はあ、はあ、全部飲んだ。これでいいでしょ。早く受け取ってよ!」

「そういえば、葵さんは元気ですか?」

「いいから、受け取ってよおおおお!」

あまりに焦らされて、狂喜乱舞してますよ。
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