妖魔03(R)〜星霜〜
だが、手の届かない位置で火野長老が止まった。

「お前たちは下がるんだ」

長老の命に従い、男の傍にいた妖魔達は遠ざかった。

「君は何者かな?」

例え、妖魔だとしても信用していない。

多分、俺も信用されていないだろう。

長老であるからして、村の民を守らなければならない義務がある。

「俺は、ハンス=ウィーガーっていうんだよなあ。正体は、気付いてるだろう?」

「それで、ハンス君はこの村に逃げてきたと?」

「あいつらに追われててよう。本当、ついてないぜえ」

疲れた仕草を見せる。

ハンスの言うあいつらとは、テンプルナイツの事だろうか。

「手当てをしよう、と言いたいところだが、もう少し尋ねたい事がある」

「何だあ?とっても痛いところもあるんだけどなあ」

「すぐに済むから心配しなくていいよ。君は逃げてきたと言ったね?もちろん、その間には戦闘もあっただろう?」

「さっきも殺されそうになったんだよなあ。だけど、殺しちゃいないぜえ」

「それを聞いて安心したよ」

「じゃあ、手当てしてくれよう」

男が火野長老に少しずつ近づいていく。

だが、火野長老は近づく事無く、距離を置いたままだ。

「残念だが、君に必要なのは生かすための治療ではなく、殺すために始末しなければならないという事だ」

「おいおい、そりゃ、何の冗談だよう?」

「冗談?ははは、君が冗談を言っているんだろう?」

火野長老は、すでに臨戦態勢に入っているようだ。

「闘った、それは解った。だが、いくら君が速く敵を倒せるとしても、能力を使わずに逃げ果せる程、彼らは易しくはない。私が不思議に思っていたのは、身なりがボロボロなのにも関わらず、魔力が一つも減っていないと言う事だよ」

「へえ、すげえなあ」

ハンスが腕を上げた瞬間、いつの間にか後ろにいた誰かに腕で胸を突き抜かれる。

「ゴホ」

ハンスは自動的に口から血を吐いて倒れた。
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