妖魔03(R)〜星霜〜
「長老が、死んだ」

「何だ、と?どういう」

いきなりの事で、理解が出来ない。

長老が死んだだと?

今か?

一体、誰に殺されたっていうんだ?

「あの男、生きてる、ぐう」

「嘘、だろ?」

ハンスが生きてるって、そんな馬鹿な話があるだろうか。

「チェリーなら、まだ変鎖を起こして間もない。だけど、私は、もう」

カメリアだけを置いていけというのか。

「俺に、それをしろっていうのか?」

「お兄さんは、本質を見抜ける人だ。今の、優先順位を、見誤っちゃいけない、よ」

目の前で起こる景色。

過去に一度だけ、見た事がある。

俺が久遠に対して起こした、夏の出来事。

これは、妖魔の『暴走』だ。

「チェリーは、まだ助かるんだな?」

「この場所を、離れれば」

「解った」

「ありがとう」

カメリアが暴走状態手前であるのならば、村の妖魔達も同じ状態であるはずだ。

長老が死んだという事実。

それは、長老の能力が発動したという事を露にしている。

バーサク状態である以上は、見境なく攻撃し始めるだろう。

俺はもちろん、娘のチェリーまでも殺してしまう。

「本当にすまない」

「いいんさ」

段々、部分部分が本来の姿を取り戻してきているようだ。

「くそったれが!」

自分の無力さが目の前に現れるものの、嘆いている暇などない。

俺は、苦しげなチェリーを脇に抱いてカメリアの家を出た。
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