妖魔03(R)〜星霜〜
俺は村の中を走っている。

最初から、どこに走るかは決めていた。

「おかあ、さん?」

苦しみの中に母親の影を見る娘。

もはや、母親に二度と会える事はないかもしれない。

チェリーも、段々と姿を現しているが、侵攻は遅いようだ。

「く」

ティアの家に行こうかとも思ったが、『暴走』が起こっている可能性は大きい。

世話にはなったが、今はお別れを言ってる暇も、助ける暇もない。

しかし、不思議な事が一つ在る。

俺は『暴走』を起こしていない。

妖魔と半妖魔に違いがあるとでもいうのか。

「ちい!」

考えながら走っていると、横から人間よりも大きな猪が突進してくる。

俺はチェリーをしっかりと抱えながらも、横に飛び込むように避ける。

俺の体を地面にぶつけるものの、チェリーも衝撃を受けているはずだ。

顔を上げてみると、他の妖魔達も色々な形に戻っている。

そして、同じ仲間同士を傷つけ合っていた。

中には、二つ首を持つ狼が、鋭い牙で傍に倒れている者の腸の肉を食らう。

「う、く」

地獄絵図に気分が悪くなるものの、寝転がっていた体を起こして再び走り出そうとした。

「ギャハハハハハハハハ!血だ!血の雨だぜ!」

俺の後ろで、大きく下品な声がした。

そこに立っていたのは、死したはずの大男。

ハンス=ウィーガーが大剣を担いで、血の雨に打たれながら歩いている。

生きていたとは聞いていたが、無傷だなんてとんだ化け物だ。

しかし、先ほどの声はハンスの声ではない。

「あいつの言った通りになったなあ」

「ギャハハハハ!もっと飲ませろ!妖魔の血は格別だからよおおおおお!」

「お前さあ、今も飲んでるだろう」

「色んな味が欲しいんだよ!」

「しょうがないなあ」

担いでいる剣から声が聞こえてくるようで、大した事がないように話をしている。
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