妖魔03(R)〜星霜〜
どうする事も、出来ない。

俺とモンドで白い空間に入ったところで、時間が経てば元に戻る。

隔離したところで、俺が暴走を止められるかといえばNOだ。

ハンスに光を放って消しても、良い結果は出ない。

むしろ、悪い結果を招く事になる。

白い光を放てば、俺は動けなくなる。

ハンスは倒せたとして後はどうなる?

先ほどの倒れている者のように、妖魔達にリンチされ惨殺死体になるのがオチだ。

「くそ」

結局、石をぶつけた事は無意味だった。

今の状況を変えられるなど、身の程を弁えていなかった。

無敵の男、暴走した妖魔達、一刻も争う娘。

今出来る事は、三番目を解決する事だけだ。

これ以上、優先順位を狂わせないように、顔を背けて走り出した。

後ろでは、何かが飛び散るような生々しい音が響き渡る。

「く」

唇を切れるほどに噛み、感情を押し殺す。

「おいおい、逃げるのかよう」

「ギャハハハ!油カスは後だよ、後!」

「腹、壊すぜえ」

「知るか、ボケ!」

そう言いながら、ハンスは残った妖魔達の相手をする。

俺は必死になって逃げた。

何も出来ずに逃げた。

チェリーを救うという名目はあるが、結局のところ逃げた。

逃げる事は仕方がないと納得せざるを得ないが、状況だけに悔しさと苦しさが浮かび上がる。

「は、は、は!」

森の中を走り、あと少しで目的地に辿り着くところだった。

だが、目の前には腕や顔が蔓や樹になった妖魔が現れる。

「まだ、終わらないのか」

正直、気持ちが折れかかっていた。
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