妖魔03(R)〜星霜〜
「後、少し、なのに」

チェリーも救えないというのか。

俺は、何て無力なんだ。

震える手をルーツに向ける。

ルーツの蔓も俺を狙っているようだ。

「約束は、終わっちゃいない」

血が多く出たせいで魔力酔いは回復したが、肉体が傷を負いすぎていた。

「何だって、いいさ、何だってなああああ!」

話し合いが通じないし、魔力を吸う事が出来ない以上は殲滅するしかない。

魔力を全て吐き出して、足りない分は生命を継ぎ足す。

向けた掌から光が吐き出され、ルーツに向って飛んでいく。

ルーツは蔓を伸ばして他の樹に巻きつけて逃げようとしたが、逃がさない。

周りの樹を焼きながら、掌を移動させてルーツを光に包み込んだ。

ところどころの樹が姿を消すのと同時にルーツの姿もなくなる。

「ぐう」

光は徐々に収まっていく。

それと同時に俺の体は地面に倒れこんだ。

「ちくしょう、もう少しだ」

目の前の色が死に、全てが白黒になった。

寿命を使ったせいかもしれない。

そんな事よりも、チェリーを連れて歩かなければならない。

「まだ、だ」

死なない程度にチェリーから魔力を頂ものの、血を流しすぎて力が入らない。

「精神論で立てるんじゃねえのか」

少年漫画じゃあるまいし、不可能な事だったのか。

そうしてる間に、チェリーの侵食は進んでいる。

「頼む、よ。誰か、頼む。チェリーを」

その時、魔力が回復したウッドの動く音が背後から聞こえてくる。

「嘘、だろ?」

天災は忘れた頃にやってくる。

「うわああああああ!」

どうする事も出来なくて、叫んだ。

誰かに届くように、大きな声で叫び続けた。
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