妖魔０３（Ｒ）〜星霜〜

「あんた、ごく稀にいい事言うわね」

「ありがとうございます。あなたが褒めてくれると、今日は３回良い事が起こりそうな気がしますよ」

野川さんは暗い顔から一転、いつもの調子に戻りました。

「アタシ、自分が絶対的に好かれてるって、自惚れてたのかもしれないな」

「野川さんは鏡の前でポーズを決めたり、自分の顔に惚れたりする人なんですね。もし、決めポーズをするなばら、ダブルバイセップス・フロントをオススメしますよ」

「ボディービルダーなんかに興味があったの？」

「拝見させてもらえば油物を食べたくなりますね。そして、あの筋肉美は定められた勇者しか会得することは出来ませんよ」

「あんたって、本当に何を考えているのか解らないわ」

「私としてはお互いの理解を深め合いたいんです」

「自分勝手な思い込みをやめれば、仲良くなれるかもしれないわね」

「常に臨機応変な対応をとっているんですがね」

現場を停滞させるわけにもいきませんからね。

「とりあえず、丞ちゃんに会って話をしたいわ」

「おや、失恋して近寄りがたかったのではないのですか？」

「はあ、あんたに絡まれてた丞ちゃんの苦労が今になってよく分かるわ」

頭を抱えてますが、怪我の後遺症でしょうか？

「あんたがどう思っているのかは知らないけど、アタシは何ともないわよ」

野川さんは立ち上がると、どこかへと歩いていきます。

「アイスでも買いに行くのですか？」

「それが自分勝手な思い込みだっていうのよ。アタシの目的、解らない？」

「新しい彼氏とデートですか？前向きな思考でいいと思いますよ」

「ま、いいわ。あんたは丞ちゃんに会いたいと思わないの？」

「彼は日本に戻ってくると踏んでいますからね。そう、日本には彼の求めるべき安らぎが存在してます」

「安らぎねえ」

摩耶さんを正妻にすべく怪我を負おうが山を越え、海を越え、彼は我が土地に舞い降りるでしょう。

「アタシは丞ちゃんと話したい。他人の口から聞かされるよりも、本人の口から聞かなくちゃ気が済まないの」