妖魔03(R)〜星霜〜
「あら、赤城さんじゃありませんか」

荒々しい運転の方とは思えないほど、おしとやかな歩き方をします。

「お久しぶりですね。あなたと会えるとは思ってもみませんでしたよ」

私と乾さんの立場からすれば、ブラジルと日本ぐらい遠いですからね。

「あなたには一言お詫びをしなくてはならないと思っていたんですの」

乾さんに迷惑をかけられたことがありましたかね?

もしかすると、私が立てた爪楊枝の家を知らぬ内に持ち帰ったのかもしれませんね。

「爪楊枝の家ならば、いくらでも差し上げますよ」

「赤城さんは手先が器用ですから今度頂きますの。ですが、そのことではないですの」

「でしたら、私の食い差しのカレーパンを食べたんですか?」

「違いますの」

「でしたら、冷蔵庫に入っているアタリかもしれないアイスを手に入れたのですか?」

「ち、ちゃう」

「でしたら」

「ちょっとは待つことを知らんのか!ワレ!」

私の襟首を持って、細い目を見開いていますね。

「久々に会えたので色々と知りたくなったんですよ」

「焦らず、少し待てばお話しますわ」

細めに戻り、私の襟首から手を離して着物を直します。

「空気岩さんのことですの」

「彼は見かけなくなりましたね。旅行でも楽しんでいるのですか?」

彼を最後に見かけたのは、野川さんが病院に運ばれた時でしょうか。

彼は葉桜君とのきっかけを与えてくれたので、もっと仲良くしたかったのですがね。

「彼は赤城さんに大変ご迷惑をかけました。ですから、辺境の地でお勉強をしてもらってますの」

「私としては嬉しい事だったんですが、非常に残念ですね。ちなみに、辺境の地とはどこにあるのですか?」

「『死の頂点』ですわ」

「それはまた、体の芯から興奮できそうな場所ですね」

噂を聞いたことがありますが、実在していたとは思ってもみなかったですね。

空気岩さんは人間ですから狙われる事がないですが、非常に羨ましく感じますよ。
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