妖魔03(R)〜星霜〜
「よう」

同じ背の高さの男は、気軽に挨拶をしてくる。

俺の記憶の中には、男に関しての情報が存在している。

会いたいとも思わないし、思い出したくもなかった。

「お父さん、お前さんがここに飛ばされるなんて思っても見なかったな」

そう、目の前のちょこっと無精ひげを生やしている男は、俺の親父だ。

ずっと、家に帰ってこなかった。

母さんが死んだ時も、俺達が苦しい思いをした時も、ずっと帰ってこなかった男だ。

今更、親父などとは思うことは出来ない。

「しかし、成長したな。童貞は卒業したのか?」

「うるせえ、どけ」

押しのけようとするのだが、動く気配がない。

大きな岩が目の前に佇んでいるようだ。

「おいおい、親子の感動の再会じゃあないか。お前さん、ちょっとは喜んだ顔を見せたらどうなんだ?」

手を頭の上に乗せてこようとしたが、手首を掴む。

「てめえと親子?ふざけるのもいい加減にしろよ!」

「器の大きくない男は女にモテないぞ。ほれ、俺を見習え」

「てめえ!」

謝罪など求めていないが、今の態度に怒りを覚える。

何の感情も抱かないと思っていたが、自分には目の前の男に対して思うところがあるらしい。

意地でもどかせようとして拳を顔面目掛けて振りかざすのだが、掌で掴まれる。

「お前に二つの事をしなければならないらしいな」

「何だと?」

「一つ、親に向ってテメエと言ういけない口に躾をしなくちゃならない。二つ、拳の使い方って奴を見せなくちゃならない」

反応する暇もなく、俺の頬には拳が決まっている。

「が!」

掴んでいた腕を離してしまい、床へと膝をつく。

「お父さんな、本当は男の顔なんか何分も見たくないんだぞ」

自称お父さんは、お吟さんのいるソファーへと歩いていく。
< 3 / 355 >

この作品をシェア

pagetop