妖魔03(R)〜星霜〜
「嘘、嘘だよ」

涙ながらにも、俺の服を引っ張っている。

「お吟さんの言っている事は、本当だ」

また、俺は約束を破ってしまった。

最後の最後まで決まらない男だ。

「お兄ちゃん、やだ!連れて行ってくれるって言った!」

「言った、な」

でも、お吟さんがいれば、何とかなるか。

意識が遠のいていく。

すでに足の感覚はなくなっていた。

眠くなるような、安定感に包まれているみたいだ。

「丞、もう休みたいか?」

お吟さんは、問いかける。

今まで聞いたこともないような、母親のような優しい声だった。

「俺は」

他の皆はどうしただろう。

生きているのか。

死んでいるのか。

解らない。

俺が今死ねば、美咲の下にいける。

それで本当にいいのだろうか?

約束を破ったまま、何も果たせないまま、死ぬ事が良い事なのだろうか?

辛い事から解放されるのは素晴らしい事だ。

先にある安らぎは、誰しもが欲しがる物だ。

でも、俺の気持ちは抵抗していた。
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