妖魔03(R)〜星霜〜
俺の意識は、お吟さんの一撃によって幕を閉じた。

チェリーに挨拶をする暇もなかった。

俺が居る場所は、深層世界。

以前と同じ場所だった。

「急なんだよな」

周囲には誰もいない。

俺一人が、ベンチに座っている。

母さんはどこに行ったのか。

心細さばかりが募る。

「丞」

「郁乃母さん」

暗闇の向こうから現れたのは、郁乃母さんだった。

姿かたちは以前と同じ。

「あなたはどうして、そこまで辛い道を選ぶのでしょう?」

「解らない。でもさ、母さんだって、俺達のために辛い思いしてきたじゃねえか」

郁乃母さんは俺を見つめるだけだった。

「親父はしょうむねえ野郎だった。でも、俺も同じくらいしょうむねえ野郎だった。きっと、血みたいなもんがあるんだろうな」

親子揃って、女の子を泣かせるんだもんな。

「でもさ、それでも、親父は凄い奴だったよ。母さんが好きになるのも、無理ねえか」

「あなたもきっと、家庭を築く時があるでしょう」

「どうだろうな。俺はもう、死ぬんだろうからな」

郁乃母さんが近づいてくると、俺の手を握る。

「私は、あなたが辛い思いをするのは見たくないでしょう」

「もう、それもなくなる」

郁乃母さんが首を振った。
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