妖魔03(R)〜星霜〜
お吟さんの渡したパックには、炭酸抜きバニラコーラと大きく書かれてある。

「これで、いいのか?」

「甘ったるーい物が大好物、二人の交わりも然りアル」

お吟さん、甘党だったのか。

新発見をした事に、少なからず喜びを見出した。

後者はスルーしておくとしよう。

「金は出すからいいんだけど、これで本当にいいのか?」

「ウダウダやってる暇はねえアル。アチシは一秒も早くバニラコーラを口にしないと糖分不足で死ぬアル」

「大げさだな」

逆に糖尿病で死ななければいいんだがな。

しかし、日常を味わえるのは嬉しい。

ゆっくりと会話をしたのはいつ振りだろうか。

俺はミルクティーとコーラとお茶を取り出して、レジに持っていく。

普通に買い物をするだけだと思っていた。

「お吟さん」

「な、何アル?お吟は肉まんなんか食べてないアルよ」

お吟さんは先にレジで肉まんを食べていた。

金額を見ると、サイフの中身を全て食い尽くすくらいに膨れ上がっている。

「あのさあ、お金が足りなかったらどうするんだよ?」

コンビニを出ると、お吟さんの手には肉まんの袋を所持している。

横取り40万くらい卑劣な行為で、財布のお金ちゃん達はレジの中へと駆け込んでいった。

「丞はいい奴アル。今度はもっと大胆な行為で昇天させるアル」

お吟さんはお腹が空いていたのかもしれないな。

笑顔を見せながら、肉まんを頬張ってる顔が素敵だ。

「ありがとさん」

俺は、お吟さんを見ているだけで幸せな気分だった。

しかし、今ある平穏の中に永遠はない。

待ち構えてる世界を乗り越えた先にしか、真なる幸福はないのだ。

「君は呑気だな」

公園に着く前、背後に異様な空気を感じた。
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