妖魔03(R)〜星霜〜
お吟さんの隣にふんぞり返るように座り、昭和の成金のように肩から腕を回して胸を揉む。

あまり見たくはない光景だ。

だが、お吟さんは嫌がる素振りを見せてはいない。

本来、お吟さんは誰でもいいから、寝るような人だったんだ。

それが、俺が忌み嫌うような奴でもだ。

「この揉み心地、バニラアイスを食っているような甘さがある」

必要のない解説だった。

ふざけた男が来ようとも、俺には関係のない話だ。

家から出る事には変わりない。

「よし、久々にドリームナイトでも送るか?」

「蛍がどれだけ腕を上げたか、楽しみアルな」

お吟さんもやる気満々のようだ。

何で、尊敬する人と他人とのセッコスを見なくちゃならないのか。

とりあえず、ここから立ち去ろう。

立ち上がろうとしたが、体が動かない。

「お前さん、脆いな」

何のことはないパンチだったのだが、体には効いているらしい。

非常に憎たらしい事ではあるが、野郎のほうが遥かに強い。

野郎が人間であっても、接近戦に置いて勝ち目がない。

一体、野郎は何をして、強くなったというのか。

「おいおい、男のお前さんに見つめられても吐き気がするだけだ」

「俺だって、テメエのことなんか、見たくねえ」

せっかくの旅立ちの日に、最悪な奴と出会ってしまった。

「それより、俺の眼に入れても痛くない愛娘の千鶴は元気か?」

「千鶴はテメエの事なんかしらねえよ」

千鶴が生まれた時には、すでに目の前の男はいなかった。

どこから情報を手に入れたのかはわからない。

まさか、母さんとやり取りでもしていたのか?

「お父さんなあ、家に帰ったらお前さんなんか放り出して、千鶴と二人暮ししたいほど愛してるんだぞ。そんな愛のあるお父さんに少しくらい教えてくれても罰は当たらないぞ」

どこまで無責任な野郎なのか。

俺は、こんな男から生まれてきたというのか?
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