妖魔03(R)〜星霜〜
「く、そ」

人間の不幸って奴は、親を選べないことなのかもしれない。

無論、選べないからといって、母さんには文句など何一つない。

それは幸福だと断言してもいい。

苦しいことや、辛いことがあったとしてもだ。

だが、目の前の野郎を見てると、腸が煮えくり返る。

何も見てこなかった奴が千鶴の名前を出すんじゃねえ。

「お父さん、恋人みたいに手を繋いでそこらを歩きたいな」

自分の幸せを語るのだが、胸を揉みながら言うとくだらなく感じる。

そういえば、毎月、家に生活できるだけの金が入金されていた。

まさか、こいつが送っていたというのか?

どこぞの足長おじさんと考えていたい。

だが、千鶴の事を知っている事から、母さんとの連絡を取っていた事が濃くなっている。

知らない内に助けられていたというのか?

「テメエ、口座に入金してたのか?」

「お父さん、テメエという名前じゃないんだけどな」

「お、お父さん、家にお金を入れてくれてたんですか?」

怒りで声を震わせながらも、気になる事を聞いてみる。

「千鶴が飢えたら困るからな。ちゃんとふくよかになるほど、食べさせたか?」

「何でだ?」

傍にいることこそが、千鶴にとっての唯一の救いだったのに。

親の温もりは必要だったのに。

「何で、千鶴を好きだって気持ちがあるのに、家に帰って来なかった!?」

「縁の下の力持ちってのは、決して表に出ないことで力が発揮できるんだ」

「は?」

「お父さんにはコソコソしながら行わなきゃならない大切な事があったんだ」

「家族よりも、大切なことだと!?」

「おいおい、仕事と私、どっちが大事なのとか迫ってくる女みたいな事を言うなよ。気持ち悪い」

堪忍袋の尾がズタズタに千切れてしまいそうだ。
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