妖魔03(R)〜星霜〜
私達は表の道を出来るだけ通らずに、広目の住処へと向う。

広目は速い。

子供と大人という体格差があるとはいえ、男と女だ。

付け加え、マヤを背負っていても追いつけない。

だが、速く移動しなければ、誰かに見つかってしまう。

治療も素早く行わなければならない。

妥当な行動だ。

姿が見えるか見えないかのところで、広目が止まった。

西に進み続けた結果、見上げなければ最上階が見えないようなビルが建っている。

「これが、四天ビルの内の一つ」

凡そ、30階はあるだろう。

ところどころの窓が割れて、掃除も行われておらず、雨の汚れによって汚くなっている。

廃墟に相応しいビルだろう。

広目の部下がどれほどの数かは解らないが、収容するには十分な大きさだ。

広目は、堂々と正面から入っていく。

自動ドアになっているガラスは大破して、開閉することはない。

後れをとると、敵だと勘違いされて攻撃される恐れがある。

私は、広目から離れずにビルへと入る。

一階フロアは大きく、正面には動かない二階までのエスカレーターが繋がっている。

左側には4つくらい並んだエレベーターが存在している。

その隣に非常階段入り口がある。

フロア中央に私と同い年くらいの少年が、殺人衝動に駆られたような鋭い目線で宙を睨んで立っていた。

少年は七三分けで、黒のジャケットの下に黒のTシャツ、黒のジーパンをはいている。

広目を待っていたのかもしれない。

「ミス広目、どこへ行かれていた?」

「散歩アル」

「一言言ってもらわなければ部下が心配する」

「アチシを束縛するのは亀甲縛りだけで十分アル」

「あなたは我らの戦女神だ。どこかで野たれ死なれては困る」

「アチシの勝手アル」

「神に祝福された乙女。簡単にくたばることはない、か」

静かに歩き始めた黒の少年は広目を通り過ぎると、後ろにいた私の前で止まる。
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