キラキラ
呼吸のような自然さで
「オリオン座」
「え?」
彼女はいつでも唐突に、
脈絡なく話を始める。
いずれ行き着く話の内容を想像しながら、
冬の冷たい空気の中に響く彼女の言葉を待つのは、
僕にしてみれば、幸福な時間のひとつだ。
しんと静まり返ったいつもの帰り道。ゆっくりとしたテンポで刻む靴の音。言葉の途中にほっと吐き出す白い息の音。
少し目を閉じて、それを深く吸い込みながら、彼女の次の言葉を待つ。
「あそこ、オリオン座でしょう?」
足を止め、彼女が指をさす先を見る。
「うん。今日は晴れているからよく見えるね。」
「オリオン座を線で結ぶと、2つの箱ができるでしょう?真ん中でみっつ並んでる星が分かれ目で…」
見上げたままの彼女を一度見やり、もう一度空に目を向ける。
「下の箱のなかに、人間の目でも見える星雲があるんだって」
「肉眼でってこと?」
「そう。私達が自分の目で見られるってこと。」
目をこらすと、それらしい感じの、星の集まりというよりも霞のようなものが確かに見える。
「ほんとだ。」
僕がそう言い、彼女に目を戻すと、
彼女の頬にも、
星が見えた。