キラキラ
予感
「はい、飲みなよ。」
小さなテーブルに、湯気の立つコーヒーが入ったマグカップを置きながら、祐夏を見る。
彼女はありがと、と俯いたまま小さな声で言った。
頭からは薄いブルーのタオルを被り、ダボダボのトレーナーにスウェット――タンスから一番マシそうなのを選んだ――という格好で、ちょこんと座っている。
何故雨の中で傘もささずに泣いていたのか。
武弘と何かあったのか。
俺は何も聞かなかった。
とにかくずぶ濡れの彼女を部屋に連れて帰り――実はかなり緊張した――、シャワーを使わせ、着替えを貸して、今の状態に落ち着くまで、必要なこと以外は何も言っていない。
彼女が聞いてほしがらないことは聞かないようにしよう、と武弘のことで散々相談を受けた中学の頃からずっとそうしてきたのだ。
「葛木くん…」
ずいぶん長い間、黙っていた彼女が、か細い声で俺を呼ぶ。
「何?」
できるだけ穏やかに響くように、問いかける。
「優しいね…」
そう言った祐夏が、顔を上げて俺を見る。
――ダメだ、やめてくれ。
そんな目で見られたら、
ダメだ。
「葛木くん…」
濡れた目で俺を見る。
嘘だろ、と思いながらもその目に抗うことなど到底できなくて、彼女の頬に手を伸ばす。
祐夏が、ゆっくり目を閉じる。
――ダメだ…
そっと唇に触れる。
それから朝までの間、祐夏は一言も話さないまま、俺の腕の中にいた。