キラキラ

祐夏は、あの夜からも、俺に変わらず接してくる。
しかし、表情や視線には危うさを感じずにはいられない。

結局のところ、別れられずにいる。



敬太は敬太で、このところ様子がおかしい。

音を合わせていても、どこかしっくりこない。


何かあったのか、と聞いても、

「何もないよ。」

の一点張りだ。


どうすりゃいいんだ。

今日も重苦しい気持ちのまま、スタジオの扉を開ける。



振り向いたのは、雪音だった。



よぉ、と声をかけるより先に雪音が口を開く。



「聞いて。」



そう言ってデッキの再生ボタンを押す。



静かなメロディーが流れ始めた。




――遠い約束、

あなたが私にくれた約束

暗い冬の夜空の、
一億の星の中でも

私は
きっとあなたを見つける


あなたが私を
見つけ出してくれたように…




雪音がマイクを持たずに、流れてくるメロディーに言葉を乗せていく。



はっきりと伝わる。
雪音は、誰かに向けてそれを歌っているのだ。
俺ではない、誰かに。




それが誰なのか、確証なんて何もない。
でも俺の中にある、確かな答え。


――村上、直樹。





そう思った瞬間、俺は雪音を抱き締めていた。



「――っ!」



抵抗する雪音を、力任せに胸にかき抱く。
スタジオの壁に雪音を押し付け、両手首をひとつにまとめて押さえつける。



めちゃくちゃに壊してやりたい。
こいつの中から、俺以外のものを引きずり出してやりたい。




雪音の顎を乱暴に掴み、唇に吸い付く。
雪音がやめて、とくぐもった声をもらすが、止められない。
くいしばる歯を無理矢理こじ開けてやる。



雪音の息が乱れて俺の口内に届き、脳髄に電気が走った。





ガタッ、

と、何かを落とす音がした。



振り向いた先にいたのは、





――祐夏だった。




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