女王様御用達。
さて、無事に生きて戻ったからには約束を果たさなければならない。



ホテルの一室で、アタシとハチは向き合う。


豪華な作りの部屋。

道具もすべて高級品だ。

アタシはキューを一本手に取り、眺める。


「何しているんですか?」

「ん、ゆがみないなって」


机の上でコロコロとキューを転がす。

いいキューだ。

全く歪みが無く、綺麗に回る。

ゆがみがあるとこうはいかない。


「これ、いいキューだからそれ使いな」

「キューってこの棒ですか」

「そ。それで玉を突くの」


アタシは持ってきた酒を一口飲み、大きな緑の机にカラーボールを9個並べ、形を作る。

そして手玉でカラーボールを散らす。

パアアンと小気味良く響き、机の上をボールが走る。


「ねえ、ニアさん」


「ん?」

「俺が白銀の騎士の話を書いたら、トキノタミって宗教の宣伝になるんでしょ?」

「まあな」

「……どうなのそれ」

「それを言ったら、王子と結婚して同じく女王になるミアも、自称神の手の中で転がされているに過ぎないだろ?」

「……」

「手が止まってる」

「すみません」

ハチは真顔でテーブル上を睨み付ける。

キューで突いた白い玉は、赤い玉と青い玉と緑の玉をふらふらと突いて動く。


「世の中みんなそうさ。誰かの意図通り動いて、転がっていく。キッカケとも言うけど」

「……」


「世の中はキッカケだらけだ。どのキッカケを選ぶのも選ぶ奴次第。その選択はあの神だって本当の神だって管理はしきれないだろ」


的はずれに転がる色玉に、ハチは顔をゆがめる。


「お前の与えたキッカケも、どれもお前の意図通りの穴に入らなかった。その程度さ」

アタシはテーブルの端に乗り、キューを傾け、白玉を突く。


景気のいい音を立て、白玉は青い玉に当たり、青玉はコロコロ穴に落ちる。
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