女王様御用達。
「ニアさんの玉は入るんですね」
「毎晩病的に酔っぱらい相手に賭てるからね~。経験の差よ」
「……経験」
「まあ、アンタが上手く動かしてくれたお陰で入れやすくはなったけどね」
もう一打、景気のいい音を立て、赤い玉が穴に落ちていく。
「ホレホレ、全部穴に入れちゃうよ」
「……初心者に容赦はしないんですか?」
「アタシ、ビシバシするのが好きなの」
「……大人の階段とか言ってたのに。騙された……」
「何か言った?」
「何も」
ハチは残念そうにため息をついた。
「ミアが元気だったら3人でプレイできたのにね」
「ははは、そーですね……」
「はい、五番入ったっ!!」
「ニアさん……こっちの番に回す気無いでしょ?」
「馬鹿たれ。相手がどれだけ玉を落としても、九番落としたらそいつが勝ちなの。要は結果なの結果」
ハチは机の端に挟まってる黄色いボールを睨み付ける。
「……どんなに誰かの意図に操られていたとしても、最後に勝っちゃえば結果オーライ。それでいいじゃない」
そんなことを口にするアタシの脳裏に『女王選抜は出来レース』という言葉が離れない。
アタシは、負けた。
それが結果として今のアタシがいる。
あの時、アタシはあの時のアタシの全力を尽くした。
ルールの幼さに手は抜いたが、でも、それもアタシの全力だ。
距離を測っていたキューの先が、白玉に当たり、あらぬ所に転がる。
「あ」
一番から全部順番に落とし、九番が残り一個の状態で、やってしまった。
「チャンス到来っ!!」
ハチがいそいそとキューを握り白玉を当てやすい場所に持って行く。
待ってましたと言わんばかりだ。
「九番落とせば勝ちですよね」
「……いちいち確認せんでよろしい」