女王様御用達。
「珍しいですね。クリスタルさん」


彼女は図書館の廊下で、女王の人物画を見上げていた。

図書館で絵の技法を学び、そして有名になった画家がお礼の為に描いたその絵は良く描けていた。

銀の髪は艶良く描かれ、白い肌は透き通るよう、紫の目は優しいまなざしだ。

後光が差すように描かれ神々しささえあるその雰囲気は、時価数億とも言われる絵となった。

図書館の売店で安価のポストカードがよく売れると聞く。



「貴方がガラにもなく、絵の鑑賞ですか?」


栗色の髪をドレッドヘアにして結い上げている。

化粧は薄く女人ながら、その表情は勇ましい。

手は筋張っていて、今日は珍しく黒いネイルを塗っていた。

彼女は赤い目で私を睨み付ける。



「黙れ、グリ毛」



血の中に貴族が入っていると言うが、品格的に血筋は見えない。

やはり半分平民の血だからだろうか。

いや、平民出でも、もっと言葉遣いがいい者はいっぱいいるだろうが。


極めてこの女は悪かった。



「これは『グリ毛』ではなく、『巻き毛』だと何度言えば理解していただけるのでしょう?」


私は肩に乗る豊かな金の巻き毛をふわりとかき上げる。


「毎日2時間かけて巻くこの髪が理解できない美意識に、この絵が理解できるとは到底思えませんね」


「……アタシ、そんな美意識無くていい」


彼女は眉をひそめた。



< 274 / 296 >

この作品をシェア

pagetop