花束

小さな相棒

「…ゆいの?」
窓からうっすら光が差し込んでくる、ある晴れた日の朝。カレンダーは、8月2日まで斜線をひいてある。ようするに、8月3日の朝だ。
目を覚まし部屋を見回すと、いつもなら優雅に黒い毛並みを整えている相棒、ゆいのの姿が見当たらない。
「ゆいの」
もう一度、確認の意味を込め名前を呼ぶ。
けれど、やはり返事はない。
いつもならなにかあたしに一言声をかけてから出かけるのに…。
ーでも、よく考えたら、あたしより頭のいいゆいののことだ。なにか考えがあって出かけたんだろう。だったら、あたしが口をだす必要はない。
普通ならー気まぐれな猫、のことをここまで心配する人はいないだろう。
だけど、あたしにはゆいのを信頼する理由があるのだ。
あたしとゆいのの、絶対の信頼関係。それはなによりも固い、崩れることのない永遠のもの。
「…それに、」
ゆいのはそこまで外が好きじゃないから、すぐ帰ってくるだろうし。
「ーにゃお」
噂をすればなんとやら、だ。
「はろ、おかえりゆいの」
そう言う前に、答えのかわりに尻尾をひとふり。
こういうのを以心伝心っていうのかな!!とにかく、あたしとゆいのは二人で一つ。

ーそう、思ってた。

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