ゴーストな彼
「おばあちゃんの 嘘つき...

 真帆が大きくなるまで
 死なないって言ってたのに...」


でも、もし先に死んだら
幽霊になって出てくると
約束していたから
あまり悲しくはなかった

両親は祖母の死をあまり
悲しくはないようだった


 そっか...
 お母さんたちもおばあちゃんが死んでも
 また会えるとから...
 そんなに悲しくないんだ


「真帆、お母さんね
 これからお仕事に行かなきゃいけないの
 おばあちゃんはもういないから一人だけど
 お留守番できるわよね
 真帆はもうすぐ小学生だもの

 これ、お金置いておくから
 後でコンビに行ってお弁当買ってきて食べて
 遅くなるから戸締りちゃんとしてね」


当時、幼稚園生だったあたしは
まだ、一人で買い物もしたことないのに
そんな事を気にすることもなく母は
テーブルの上にお金を置いて出て行った



「おばあちゃん...」

「おばあちゃん...」


一人きりになった部屋であたしは
祖母の姿を探し続けた


「おばあちゃん...
 おばあちゃん...

 ぅっ..ぅぇっ...
 おばあちゃん...」


どんなに呼んでも
どんなに探しても
祖母は出て来てはくれなかった


「おばあちゃん...
 お腹すいたよう...」


あたしは祖母が毎日
身に着けていたエプロンを手に
泣きながら眠ってしまった


「...帆.......真帆.....
 真帆...ちょっと起きなさい」


「...ママ」


「何でこんな所に眠っているの
 ご飯は?食べた?
 やだ、買いにも行ってないの?

 真帆は来年小学生のお姉ちゃんになるのよ
 ママとパパはお仕事で忙しいから
 真帆がしっかりしてくれないと困るのよ

 もう、いいから
 部屋へ行って寝なさい」


「ママ...
 おばあちゃん...
 来てくれなかった」


「ぇ...?」


「おばあちゃん...」


「真帆!!
 おばあちゃんは死んだでしょう
 昨日、棺に入れて燃やしたじゃない」


「でも...
 おばあちゃん...」


「あ~、もう...
 ママ疲れているのよ
 明日も早いし...
 何の夢を見たか知らないけど
 自分の部屋で寝なさい」


泣きべそのあたしを母は
うっとうしがってあたしを部屋へ追いやった


「ぅぇ...
 ぅぇっ...
 おばあちゃん...」


翌朝起きると
母の姿はすでになく

あたしは再び祖母のエプロンを手に
祖母の姿を探した

でも...

どこを探しても
何度呼んでも
何日経っても祖母は
再び私の前に姿を
現すことはなかった

大好きな祖母に裏切られ
もう二度と...
祖母に逢えないんだ...という現実に
あたしの小さな胸は押しつぶされそうになった

 「死んでもあなたのことを見守っているよ」という
  真の意味を理解するにはあたしはまだ幼く


「嘘つき...
 おばあちゃんの嘘つき...」


あたしは毎日
祖母のエプロンを涙と鼻水で
ぐちゃぐちゃにしていた


それを見兼ねた母が


「いい加減にしなさい!!
 死んだ人のことをいつまでも...
 どんなに泣いたってね
 死んだ人は生きかえらないのよ!!」

そう言うと母は
祖母のエプロンを取り上げ
ゴミと一緒に外に捨てに行ってしまった


「おばぁちゃん...」

あきらめきれないあたしは
夜中にこっそり外へ探しに行ったが
それは見つからなかった


それからすぐに
両親が離婚
母親に引き取られるも
変わらず母は仕事と言っては
朝から晩まで家に寄りつかず
あたしはずっと
一人寂しく過ごした


幸い、お金だけは置いてくれたので
あたしはそのお金を節約しコツコツ貯めて
寮のある高校に入学し親元を出た

ほとんどネグレスト状態の親元で育ったからか
あたしは結構ドライな人間に成長し
思いっきり現実を生きていたからか
クラスメイトの幽霊を見たという話が
あまりにもしつこく嘘ぶいていた為
ちょっとムキになって反論してしまった

本当、バカ...
放っときゃいいのに...
あんな話にムキになっちゃって...

 明日、さつきに謝んなきゃ...


そんなあたしもすっかり大人になって
生と死をつなぐ仕事をしていた
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