ゴーストな彼

コツ..コツ..コツ...


遥か遠く天空まで上がった
青白い月に照らされながら
あたしは重い足を引きずり
アパートの階段を上る


時刻は午前1時30分


 疲れた...
 眠い...

 ホントッ、このままじゃ
 死んじゃう...
 勤務体制を考えなきゃ...


クタクタの身体を引きずって
やっとの思いで家に着き
カバンを置いた瞬間

ゾク...
ゾクゾクゾク...

思わず身震いするほどの寒気に


 ぇ? やだ...
 エアコン切り忘れたのかな

そう思ってエアコンの電源を確認するも


 ついてない...

 風邪?


あたしはおでこや首元に触れ
体温を確認する


 冗談じゃない
 今か風邪なんかひいたら
 職場の人に何て言われるか...


あたしは慌ててキッチンに行き
手洗いと、うがいを済ませる


 ふぅ...
 もぅ、いいや...
 お風呂は明日入って...
 今日はもう寝よ...


そんな事を考えながら
洗面所から出てくると


 ぇ...?


リビングとキッチンを分けている
すりガラス戸の向こう側のリビングから
明るい光がもれている
恐る恐るリビングに入ると
TVがついている


 TV...
 あたし、消し忘れた...?


ここんところ仕事が忙しく
帰ったらすぐに寝る為

 ずいぶんとTVなんて
 見てないんだけどな...


腑に落ちないままTVを消す

ピッ!


 はぁ...


安堵で息を吐き出すと
気が抜けたのか
疲労が一気に押し寄せ
あたしはそのままベッドに
倒れ込んだ


 もぉ...いいや...
 このまま寝ちゃえ...

 ごはんもお風呂もハミガキも
 コンタクトもお化粧もぜぇ~ぶ
 もう、どうでもいい...


眠りに落ちて行く次の瞬間


ビクッッッ!!!


あたしは何かの気配を感じ
飛び起き辺りを見まわす


 何...
 この感じ...


辺りを注意深く見ていると
出窓の近くに何やら黒い人影


 ぇ.. 誰かいる?
 
 男の人?
 ド、ドロボウ...


 違う...
 人じゃない...
 影...?
 何の...?

 ぇ、何...?

 何か透けてない???



その黒いものは
確かに人の形を成してはいるが
向こう側が完全に透けて見える


ただ黒いだけの
影のようなものなのに
あたしにはそれが
男の人だと分かった

その影のような男は
ただじっと...
あたしが消したTVの画面を
じっと見つめていた


「ねぇ...」


思わず声をかけてから

 何やってんの? あたし
 
 .......ぅ~ん
 さすがにこれはマズいわ
 疲れが極限過ぎて
 幻覚が...


あたしはとにかく
疲れを癒そうと瞼を閉じる


すると


「ヘェ...

 キミ、オレノコトガ
 ミエルンダネ」


その言葉に思わず
パチっと目を開ける
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