キャンティ
コトン…


「どうぞ…」


親父さんは僕を家にあげてくれた。かすかな墨の香りと畳の感触が懐かしかった。


「申し訳ありませんでした。」


突然、親父さんは僕に頭を下げた。


「え?あ、いや、」


僕は戸惑った。


「私は親としてあの子に最低なことをしました。」


「え?」


「あの子はあなたとお付き合いをしていたのではありませんか?柏木さん。」


「…。」


僕は答えなかった。


「2年前、私の経営していた小さな工場がつぶれました。」


親父さんは小さくお茶をすすった。


「当然ながら多額の借金を抱えましてね…自殺も考えていました。しかし、そんな時、顔見知りの社長さんからとてもいいお話をいただいたんです。」


僕は、はっとした。


「そう。それが愛里沙と社長のご子息との縁談の話です。
うまくいけば、借金もほとんど負担してくれると言うんです。」


僕の心臓は張り裂けそうなほどに波打っていた。


「不思議なんですよ。あの子はまったく嫌がることもなく、素直にその申し入れを受け入れてくれた。」
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