キャンティ
「あのわがままな娘が…」


そう言う親父さんの肩は小刻みに震えていた。


「柏木さん。あなたの存在があることは少なからずわかっていました。あの子はよくケンタという名の友達の話をとてもうれしそうにしていましたから。」


「そう…ですか。」


「それでも私は半ば強引にこの話を進めました。
それなのに、あの子は結婚式の当日、私にありがとう…と言ってくれたんです。こんな最低な父親に…」


親父さんの目から大粒の涙がポロポロと流れ落ちた。


「愛里沙さんには会いに行かないんですか?」


僕が言うと、


「家内は確認に行きましたが、私にはあの子に合わす顔がない…」


そう言って親父さんはうつむいてしまった。


「僕は…何も知らなかったわけか…。」


真実も愛里沙の気持ちも何もかも。


「ああ…本当に申し訳ない。なんてことだ。」


「いえ、仕方ないんです。結局、彼女の手を離したのは…僕なんですから…。」


チリリン…


季節はずれの風鈴が小さく揺れた。


「柏木さんのもとに電話がいったと聞いて確信しましたよ。愛里沙の本当の気持ちをね。」 


そう言って親父さんは再び僕に頭を下げた。

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