キャンティ
電話を切った後、


僕の心の中で何かが崩れた。


「くっ…」


乾いた頬に涙がつたう。


僕は彼女を救えなかった。

彼女もまた僕を救わなかった。


お互いに意地悪でも悪戯でもなく、ただそこに存在する縁とか時間とか重圧とかそういうすべてのものを目の前から取り去りたかったのだ。


しかし、僕のその空になった箱の中には「好き」という形のない感情だけが残ってしまい、それがこんなにも一人歩きするからなかなか前に進めなかったのだ。


「うぅぅぅ…」


僕は顔を覆った。


静まり返る部屋の片隅で何時間も泣き続けた。

その間、傍にはずっとポテチが寄り添っていた。僕はポテチからティッシュを何枚も何枚も引っ張りだし、顔を拭き、鼻をかんだ。



「ポテチも会わせてやりたかったなぁ。彼女に。」


言いながら、また悲しくなってきた。でも、僕は前に進まなければならない。


彼女はもういない。
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