キャンティ
「私、離婚してあの子を1度手放してしまったけれど、あの人が死んでしまったでしょう…。
可奈の引き取り手が必要ですもんね。」


その女性はハンカチで額の汗を拭きながら、そう言った。


「あの…失礼ですが、可奈はあなたのこと…？」


俺は尋ねた。


「ええ。何も覚えてないと思いますよ。あの子が生まれて間もなくして私達は離れてしまいましたから…。あ、でも、引き取ってからも不自由はさせないつもりです。私再婚して、今はアメリカで暮らしてるの。お金はありますから。」


女性はそこまで話すと、ひとつ大きなため息をついた。


「あの…」


俺は言った。


「彼女は父親が死んだことをまだ知りません。せめて彼女の目の手術が終わるまでは黙っていてはもらえませんでしょうか…。」


すると、母親は


「それは無理な話だわ。」

と言った。
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