キャンティ

カラン…


「いらっしゃいませ。」


私は、仕事の帰りに街角の小さな喫茶店に立ち寄った。


「こんな所にこんな素敵なお店があったなんて…。」


私は、コーヒーを注文して席についた。


「お仕事の帰りですか？」


マスターが尋ねてきた。


「ええ。今日、フランスから戻って来たんです。」


私は言った。


香りの深いコーヒーが私の前に出された。
一口、口に入れるとフライトの疲れを忘れてしまうくらいの穏やかで温かい湯気の流れを感じた。


「私、フライトアテンダントをやっているんです。世界各地を飛び回って、幾度もおいしいコーヒーに巡り合ってきたけれど、不思議ねぇ。」


私はもう1杯コーヒーを口に運んだ。


「ここのコーヒーは今までにない味がするわ。初めて口にするのに…なんて言うか…とても懐かしい香りがする。」


私の体がゆっくりとほぐれていくのがわかった。
最高に幸せなひとときだ。