キャンティ
「久しぶり。」


驚いた…
声の主は忘れもしない元カノの愛里沙だった。


「辞めたんだって?会社。」


彼女の声は冷ややかだった。


「ああ。お陰様でね。」


僕は声が震えないように必死だった。


「嫌味たっぷりね。まあ…仕方ないか…。」


「何の用だよ?今更。」


「ねぇ。そんなに怒らないでよ。心配なのよ。あなたのことが。」


相変わらず彼女は上から目線だ。


僕は立ち上がり、キッチンに向かった。


残り少ないインスタントコーヒーの瓶を乱暴に取り出した。


「他に何か言うことないのかよ?」


「私に謝れ、とでも?」


「いや、そうじゃない。ただ…」


「ただ?」


僕は深呼吸して言った。


「…愛里沙は僕のこと好きだったのかなって…今更だけど疑問に思って。」


「…」


彼女の返事はなかった。


「僕は…どうしたらよかったのかな。」


「そんなこと…私に聞かないでよ。」


「だよね。」


僕は苦めに作ったコーヒーをすすった。


部屋が夕焼けに染まり、すべてがオレンジ色に包まれ始めた。


ふと、あの喫茶店のコーヒーの味を思い出した。
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